本稿では、ハリー・ファーステンバーグ(Harry Furstenberg)が1955年に発表した、整数全体 $\mathbb{Z}$ に巧妙な位相(等差数列位相)を導入して素数が無限個存在することを示す証明と、その位相構造が持つ代数的・幾何学的な深い性質(開基の条件、分離公理、および有理数空間 $\mathbb{Q}$ との同相性、そしてその自然なコンパクト化)について、省略することなく詳細に解説する。
ゼロでない整数 $a$ と任意の整数 $b$ に対して、等差数列の集合を次のように定義する。
この $S(a, b)$ の全体を開基(基本開集合の族)として $\mathbb{Z}$ に位相を定める。すなわち、$\mathbb{Z}$ の部分集合 $O$ が「開集合」であるとは、$O$ が空集合であるか、あるいは $O$ に含まれる任意の点 $x$ に対して、ある $a \neq 0$ が存在して $S(a, x) \subseteq O$ となることと定義する。直感的には、「開集合とは、いくつかの等差数列の和集合として表せる集合」である。
この等差数列位相には、証明の核心となる2つの強力な性質が存在する。
素数が有限個しか存在しないと仮定し、矛盾を導く。
ステップ1:素数が有限個であるという仮定
存在するすべての素数を $p_1, p_2, \dots, p_k$ とする。
ステップ2:すべての素数の倍数の集合 $A$ の構成
各素数 $p_i$ の倍数全体の集合は $S(p_i, 0)$ と書ける。これらの和集合を $A$ とする。
性質2より、各 $S(p_i, 0)$ は閉集合である。ここで、有限個の閉集合の和集合は再び閉集合になるという位相の公理から、素数が有限個であるという仮定のもとでは、集合 $A$ は閉集合となる。
ステップ3:集合 $A$ の補集合の評価
$-1$ と $1$ を除くすべての整数は、素因数分解の基本定理により、必ず少なくとも1つの素因数を持つ。つまり、$-1$ と $1$ 以外のすべての整数は、いずれかの $S(p_i, 0)$ に含まれている。したがって、集合 $A$ は次のように言い換えられる。
この両辺の補集合をとると、次の関係を得る。
ステップ4:矛盾の発生
ステップ2において $A$ は閉集合であることを示したため、その補集合である $\mathbb{Z} \setminus A = \{-1, 1\}$ は開集合でなければならない。しかし、$\{-1, 1\}$ は要素を2つしか持たない有限集合である。これは性質1「空でない開集合は必ず無限集合である」という事実に真っ向から矛盾する。
結論
矛盾が生じた原因は「素数が有限個である」と仮定したことにある。したがって、素数は無限に存在する。$\blacksquare$
等差数列の集合族 $\mathcal{B} = \{ S(a, b) \mid a \in \mathbb{Z} \setminus \{0\}, b \in \mathbb{Z} \}$ が、実際に $\mathbb{Z}$ 上の開基となるための条件を満たしていることを厳密に証明する。集合族 $\mathcal{B}$ が開基となるためには、次の2つの条件を満たす必要がある。
任意の整数 $x \in \mathbb{Z}$ をとる。公差 $a = 1$ の等差数列 $S(1, x)$ を考えると、定義より次が成り立つ。
当然ながら $x \in S(1, x)$ であり、かつ $S(1, x) \in \mathcal{B}$ である。したがって、すべての整数は少なくとも1つの $\mathcal{B}$ の要素に含まれ、被覆条件が満たされる。$\blacksquare$
2つの基本開集合 $B_1 = S(a_1, b_1)$ と $B_2 = S(a_2, b_2)$ をとり、その共通部分に属する任意の整数 $x \in B_1 \cap B_2$ を想定する。
1. 等差数列の表現の書き換え
$x \in S(a_1, b_1)$ より、ある整数 $n_1$ を用いて $x = a_1 n_1 + b_1$ と表せる。このとき、任意の $y \in S(a_1, b_1)$ は $y = a_1 n + b_1 = a_1(n - n_1) + x$ と変形できるため、集合として次が成り立つ。
同様に、$x \in S(a_2, b_2)$ であることから、以下も成り立つ。
2. 共通部分の数論的性質
ある整数 $y$ が共通部分 $S(a_1, x) \cap S(a_2, x)$ に属するための必要十分条件を考える。これは次のように言い換えられる。
すなわち、$y - x$ は $a_1$ と $a_2$ の共通の倍数(公倍数)でなければならない。
3. 最小公倍数による基本開集合の構成
$a_1 \neq 0$ かつ $a_2 \neq 0$ であるから、これらの最小公倍数を $L = \text{lcm}(a_1, a_2)$ と置くと、$L \neq 0$ である。数論の基本性質より、2つの数の公倍数は、必ずその最小公倍数の倍数となる。したがって、$y - x$ が $a_1$ と $a_2$ の公倍数であることは、$y - x$ が $L$ の倍数であることと同値である。これを開集合の記法に戻すと、次の一致を得る。
ここで $B_3 = S(L, x)$ と定めれば、$L \neq 0$ より $B_3 \in \mathcal{B}$ であり、かつ次を満たす。
以上により、共通部分の条件も完全に満たされたことが示された。$\blacksquare$
ファーステンバーグの等差数列位相を備えた $\mathbb{Z}$ は、数論的特性を持つと同時に、位相幾何学の分離公理を極めて高い水準で満たす。具体的には、標準的な分離公理 $T_0$ から $T_4$ までをすべて満たしている。
異なる2つの整数 $x, y \in \mathbb{Z}$ ($x \neq y$)をとる。
2点の間隔の絶対値よりも大きな整数 $a$ を選ぶ。すなわち $a > |x - y|$ とする。この $a$ を公差として、2つの基本開集合を以下のように構成する。
明らかに $x \in U$ かつ $y \in V$ である。ここで、これらが互いに素($U \cap V = \emptyset$)であることを背理法で示す。仮に共通部分に属する要素 $z \in U \cap V$ が存在したと仮定すると、合同式の定義より次が成り立つ。
これより $x \equiv y \pmod a$、すなわち $x - y$ は $a$ の倍数でなければならない。しかし、最初に $a$ を $0 < |x - y| < a$ となるように選んだため、$x - y$ が $a$ の倍数となることは不可能であり、矛盾が生じる。したがって $U \cap V = \emptyset$ となり、異なる2点を開集合で分離できるため、ハウスドルフ空間である。$\blacksquare$
空間が $T_1$(任意の1点集合が閉集合)を満たし、かつ「任意の閉集合 $F$ と、それに含まれない点 $x \notin F$」を互いに素な開集合で分離できるとき、その空間は正則空間と呼ばれる($T_2$空間は常に $T_1$空間であるため、$T_1$は満たされている)。
閉集合 $F$ と $x \notin F$ を任意にとる。$x$ は開集合である補集合 $\mathbb{Z} \setminus F$ に含まれる。$\mathcal{B}$ は開基であるため、開集合の定義より、ある基本開集合 $S(a, b)$ が存在して次を満たす。
ここで、全空間を分離する2つの集合を次のように定義する。
性質2で示した通り、基本開集合 $S(a, b)$ は閉集合でもあるため、その補集合 $V$ は開集合である。また、包含関係の反転により $S(a, b) \subseteq \mathbb{Z} \setminus F \implies F \subseteq \mathbb{Z} \setminus S(a, b) = V$ となる。したがって、次が成立する。
以上より、点と閉集合を開集合 $U, V$ によって完全に分離できたため、正則空間である。$\blacksquare$
正則性($T_3$)を超えて、この空間が正規空間($T_4$:互いに素な閉集合同士を開集合で分離できる空間)であることを示すには、位相幾何学における強力な定理であるウリゾーンの距離化定理を経由するのが最も明快である。
等差数列位相が距離化可能であることが示されたが、ここではそれを誘導する具体的な距離関数 $d(x, y)$ の形を明示し、この空間の幾何学的な正体を暴く。
2つの整数 $x, y$ が「どれほど大きな階乗で割り切れるか」をもとに距離を定義する。任意の異なる整数 $x, y \in \mathbb{Z}$ に対し、$x - y$ を割り切ることのできる最大の階乗を $k!$ とする(ただし $k \in \mathbb{N}$)。このとき、距離 $d(x, y)$ を次のように定める。
なお、この距離は通常の三角不等式よりも強力な強三角不等式(超距離不等式)を満たす。
この性質を持つ空間は「超距離空間(ウルトラメトリック空間)」と呼ばれる。
定義した距離関数 $d(x, y)$ から定まる距離位相 $\tau_d$ が、等差数列位相 $\tau_F$ と完全に一致すること($\tau_d = \tau_F$)を証明する。
(1) $\tau_d \subseteq \tau_F$ の証明:
距離位相における点 $x$ を中心とする半径 $\epsilon > 0$ の開球 $B(x, \epsilon) = \{ y \in \mathbb{Z} \mid d(x, y) < \epsilon \}$ を考える。$1/m < \epsilon$ となる十分大きな自然数 $m$ をとる。
定義より、$d(x, y) < 1/m$ となるのは、$(x - y)$ を割り切る最大の階乗 $k!$ について $k > m$ が成り立つとき、すなわち少なくとも $(m+1)!$ が $(x - y)$ を割り切るときである。したがって、次が成り立つ。
$$B(x, 1/m) = \{ y \in \mathbb{Z} \mid y \equiv x \pmod{(m+1)!} \} = S((m+1)!, x)$$
$S((m+1)!, x)$ は等差数列位相における基本開集合であるから、距離位相の任意の開球は $\tau_F$ の開集合として表せる。よって $\tau_d \subseteq \tau_F$ である。
(2) $\tau_F \subseteq \tau_d$ の証明:
等差数列位相の任意の基本開集合 $S(a, x)$ をとる。$m = |a|$ とすると、$m! = m \cdot (m-1) \cdots 1$ であるため、$m!$ は必ず $a$ の倍数となる。よって、公差 $m!$ の等差数列は公差 $a$ の等差数列の部分集合となる。
$$S(m!, x) \subseteq S(a, x)$$
ここで、(1)での議論から $S(m!, x) = B(x, 1/(m-1))$ である。したがって、任意の基本開集合 $S(a, x)$ は点 $x$ の周りの開球を含んでおり、等差数列位相の開集合は距離位相の開集合でもある。よって $\tau_F \subseteq \tau_d$ である。
以上より、$\tau_F = \tau_d$ が示され、この距離関数が等差数列位相を正しく生成することが証明された。$\blacksquare$
「孤立点を持たない可算な距離空間は、すべて有理数空間 $\mathbb{Q}$ と同相である」というシェルピンスキーの定理(1920年)を証明する。この証明には、カントールの「バック・アンド・フォース(Back-and-Forth)法」をclopen集合(開かつ閉なる集合)の分割に適用する。
準備:clopen基底の存在
孤立点を持たない可算な距離空間を $X$ とする。$X$ の任意の点 $x$ と半径 $\epsilon > 0$ に対して、$x$ から他の点への距離の集合 $D_x = \{ d(x, y) \mid y \in X \}$ を考える。$X$ は可算集合であるため $D_x$ も可算集合である。したがって、区間 $(0, \epsilon)$ には $D_x$ に含まれない実数 $r$ が必ず存在する。この $r$ を用いて開球 $B(x, r) = \{ y \mid d(x, y) < r \}$ を考えると、境界となる距離 $r$ の点が存在しないため、これは閉球 $\{ y \mid d(x, y) \le r \}$ と完全に一致する。すなわち、$X$ はclopen集合からなる開基を持つ(ゼロ次元空間である)。$\mathbb{Q}$ も同様に、無理数での切断によりclopen基底を持つ。
帰納的構成(Back-and-Forth法):
$X$ と $\mathbb{Q}$ をそれぞれ可算列として列挙する:$X = \{x_1, x_2, \dots\}$, $\mathbb{Q} = \{q_1, q_2, \dots\}$。
ステップ $n$ において、以下の条件を満たす $X$ の有限clopen分割 $\mathcal{P}_n$ と、$\mathbb{Q}$ の有限clopen分割 $\mathcal{Q}_n$、およびその間の全単射な対応 $\phi_n: \mathcal{P}_n \to \mathcal{Q}_n$ を帰納的に構成する。
ステップ $n$ の実行:
(Forth) 点 $x_n$ が既に分離されていなければ、それが属する $P \in \mathcal{P}_{n-1}$ を2つのclopen集合に分割し、一方に $x_n$ を含める。これに対応する $Q = \phi_{n-1}(P)$ は孤立点を持たないため無限集合であり、同様に2つのclopen集合に分割できる。さらに各要素を細分して直径を $1/n$ 未満にする。
(Back) 同様に、点 $q_n \in \mathbb{Q}$ についても、それが属する分割を細分し、$X$ 側の対応する集合も細分して包含関係を対応させる。
この操作を無限に繰り返す。
同相写像の定義:
任意の $x \in X$ は、各ステップで唯一の $P_n \in \mathcal{P}_n$ に属する。対応する $\mathbb{Q}$ のclopen集合の列 $Q_n = \phi_n(P_n)$ を考える。条件4より $Q_n$ の直径は $0$ に収束し、$\mathbb{Q}$ も完備ではないが、Back-and-Forthの構成(条件3)により、この縮小する集合列の共通部分は $\mathbb{Q}$ 内のただ1点 $q$ に必ず収束するよう設計されている。ここで $f(x) = q$ と定義する。
この写像 $f: X \to \mathbb{Q}$ は、構成の対称性から全単射であり、互いに対応するclopen基底を写し合うため、連続かつ逆写像も連続(同相写像)となる。これにより定理が証明された。$\blacksquare$
位相空間 $(\mathbb{Z}, \tau_F)$ と $\mathbb{Q}$ は、その位相の由来(数論的合同と実数の大小関係)が根本的に異なるため、単一の有限な代数式($f(x) = \dots$ のような閉じた式)で同相写像を記述することは不可能である。しかし、数学的・位相幾何学的に厳密な「具体形」として、両者の構造を決定論的に結びつける構成的アルゴリズムを明示的に定義することができる。以下にその同相写像 $f: \mathbb{Z} \to \mathbb{Q}$ の具体的な構成手順(具体形)を示す。
【同相写像 $f$ の構成的定義(具体形)】
1. 列挙の固定:
$\mathbb{Z}$ の要素を絶対値順に列挙する:$z_1=0, z_2=1, z_3=-1, z_4=2, z_5=-2, \dots$
$\mathbb{Q}$ の要素をカントールの対角線論法に基づき列挙する:$q_1=0, q_2=1, q_3=-1, q_4=1/2, q_5=-1/2, \dots$
2. 初期状態:
集合 $A_0 = \emptyset, B_0 = \emptyset$ とし、写像 $f$ は空とする。
3. 第 $n$ ステップ(帰納的アルゴリズム):
以下の手順で $f(z_n)$ および $f^{-1}(q_n)$ を確定していく。
(Forthステップ:$z_n$ の像の決定)
もし $z_n$ が既に定義域 $A_{n-1}$ に含まれていれば何もしない。含まれていない場合、$z_n$ と既存の点 $z \in A_{n-1}$ との距離 $d(z_n, z)$ を計算する。距離が最小(すなわち、差を割り切る最大の階乗 $K!$ が最大)となる点 $z^* \in A_{n-1}$ を見つける。
$\mathbb{Q}$ 上において、$f(z^*)$ を中心とし、既存の点 $B_{n-1}$ の他の要素を含まないような最大の開区間をとる。さらにこれを無理数 $\alpha, \beta$ を用いてclopen区間 $V = \mathbb{Q} \cap (\alpha, \beta)$ に縮小する。
$\mathbb{Q}$ の列挙 $q_1, q_2, \dots$ のうち、この $V$ に含まれ、かつ $B_{n-1}$ に属さない最初の要素 $q$ を選び、$f(z_n) = q$ と定義する。
(Backステップ:$q_n$ の逆像の決定)
もし $q_n$ が既に値域 $B_{n-1} \cup \{q\}$ に含まれていれば何もしない。含まれていない場合、$q_n$ に最も近い既存の点 $q^* \in B_{n-1} \cup \{q\}$ を見つける。
$\mathbb{Z}$ 上において、$f^{-1}(q^*)$ を中心とする十分小さな等差数列の開集合 $S(L!, f^{-1}(q^*))$ (ただし既存の他の点を含まない)をとる。
$\mathbb{Z}$ の列挙 $z_1, z_2, \dots$ のうち、この等差数列に含まれ、かつ既存の点に属さない最初の要素 $z$ を選び、$f(z) = q_n$ と定義する。
この決定論的アルゴリズムによって、任意の $z \in \mathbb{Z}$ の像 $f(z)$ および任意の $q \in \mathbb{Q}$ の逆像が有限回のステップで一意に計算される。これが求める同相写像の数学的な具体形である。
【正しさの証明】
上記で構成された写像 $f: \mathbb{Z} \to \mathbb{Q}$ が同相写像であることを示す。
1. 全単射性: 構成アルゴリズムの Forth ステップにより、列挙されたすべての $z \in \mathbb{Z}$ は必ず定義域に追加される。Back ステップにより、すべての $q \in \mathbb{Q}$ は必ず値域に追加される。したがって $f$ は全単射である。
2. 連続性: 任意の $z \in \mathbb{Z}$ とその像 $f(z) \in \mathbb{Q}$ について、$f(z)$ の任意のclopen近傍 $V \subset \mathbb{Q}$ を考える。アルゴリズムの性質上、$z$ の十分近くの点(十分大きな $m!$ を公差に持つ等差数列上の点)は、Forth ステップにおいて既存の点 $f(z)$ の近傍 $V$ の内部へと再帰的に割り当てられる。したがって、ある等差数列 $S(m!, z)$ が存在し、$f(S(m!, z)) \subseteq V$ となる。これは $f$ が連続であることを意味する。
3. 逆写像の連続性: 全く対称的な Back ステップの構造により、$\mathbb{Q}$ で近い点(十分小さな区間にある点)は $\mathbb{Z}$ の等差数列の同一の枝に割り当てられるため、$f^{-1}$ も連続である。
ゆえに、この構成的写像 $f$ は $(\mathbb{Z}, \tau_F)$ と $\mathbb{Q}$ の間の同相写像である。$\blacksquare$
等差数列位相を入れた $\mathbb{Z}$ は、完全不連結かつハウスドルフな位相空間であり、和と積について連続な「位相環」でもあります。この位相空間に対する最も自然で「良い」コンパクト化は、副有限完備化(profinite completion) と呼ばれる空間 $\widehat{\mathbb{Z}}$ です。ここではその構成、位相的性質、およびなぜそれが「良い」コンパクト化なのかを証明とともに解説します。
$\mathbb{Z}$ の副有限完備化 $\widehat{\mathbb{Z}}$ は、すべての自然数 $n \geq 1$ に対する剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$(離散位相を入れる)の射影極限(逆極限)として定義されます。
具体的には、$m$ が $n$ を割り切る($n \mid m$)ときに自然な自然な射影 $\pi_{m,n}: \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ が存在します。$\widehat{\mathbb{Z}}$ は直積空間 $\prod_{n=1}^\infty \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の部分空間として、次のように表される要素 $(x_n)_{n=1}^\infty$ の集合です。
各 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は有限集合であり、離散位相が入っているため、コンパクトな完全不連結ハウスドルフ空間です。
チコノフの定理(Tychonoff's theorem)によれば、コンパクト空間の任意の直積空間 $\prod_{n=1}^\infty \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ もまたコンパクト空間となります。
$\widehat{\mathbb{Z}}$ を定義する条件 $\pi_{m,n}(x_m) = x_n$ は、各座標への射影関数を用いた連続関数の等式として表されるため、$\widehat{\mathbb{Z}}$ は直積空間の閉部分集合です。
コンパクト空間の閉部分集合はコンパクトであるため、$\widehat{\mathbb{Z}}$ はコンパクト空間です。
また、完全不連結空間の直積は完全不連結であり、その部分空間も完全不連結です。
したがって、$\widehat{\mathbb{Z}}$ はコンパクトで完全不連結なハウスドルフ空間(ストーン空間)となります。$\blacksquare$
整数 $k \in \mathbb{Z}$ は、各 $n$ を法とする剰余の列 $\iota(k) = (k \bmod 1, k \bmod 2, \dots)$ として自然に $\widehat{\mathbb{Z}}$ の中に埋め込むことができます。この単射 $\iota: \mathbb{Z} \to \widehat{\mathbb{Z}}$ によって、$\mathbb{Z}$ を $\widehat{\mathbb{Z}}$ の部分集合とみなします。
(1) $\mathbb{Z}$ が $\widehat{\mathbb{Z}}$ で稠密であること:
$\widehat{\mathbb{Z}}$ の直積位相における任意の基本開集合(空でない)は、ある有限個の添字 $n_1, \dots, n_r$ における値 $a_1, \dots, a_r$ を指定することで得られます。射影極限の定義より、これらを統括する最小公倍数 $N = \text{lcm}(n_1, \dots, n_r)$ における値 $A \in \mathbb{Z}/N\mathbb{Z}$ を一つ指定する開集合と同値になります。
この開集合に含まれる条件は、「$x \equiv A \pmod N$」を満たすことです。明らかに、このような整数 $x \in \mathbb{Z}$ は無限に存在するため、$\iota(\mathbb{Z})$ は $\widehat{\mathbb{Z}}$ の任意の空でない開集合と交わります。よって $\mathbb{Z}$ は稠密です。
(2) 相対位相が等差数列位相と一致すること:
(1)の議論から、$\widehat{\mathbb{Z}}$ の基本開集合を $\mathbb{Z}$ に制限して得られる部分空間としての基本開集合は、まさに「合同式 $x \equiv A \pmod N$ を満たす整数 $x$ の集合」、すなわち等差数列 $S(N, A)$ そのものです。
したがって、$\widehat{\mathbb{Z}}$ から誘導される相対位相は、ファーステンバーグの等差数列位相と完全に一致します。$\blacksquare$
$\widehat{\mathbb{Z}}$ は各素数 $p$ に対する $p$進整数環 $\mathbb{Z}_p$ の直積と位相環として同型になります。
証明のスケッチ:
任意の自然数 $n$ は素因数分解により $n = p_1^{e_1} \cdots p_k^{e_k}$ と表せます。中国の剰余定理(CRT)により、環の同型 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \cong \prod_{i=1}^k \mathbb{Z}/p_i^{e_i}\mathbb{Z}$ が成り立ちます。
すべての $n$ に対して逆極限をとる操作は、素数 $p$ ごとの素数べき $p^e$ に対する逆極限の直積をとる操作と可換になります。
定義により $\varprojlim_e \mathbb{Z}/p^e\mathbb{Z}$ は $p$進整数環 $\mathbb{Z}_p$ に他ならないため、全体の逆極限はすべての素数 $p$ についての $\mathbb{Z}_p$ の直積空間に分解されます。
この定理により、等差数列位相の数論的な大局的性質は、各素数ごとの局所的な性質($p$進位相)に分解して扱うことが可能となります。$\blacksquare$
等差数列位相を入れた $\mathbb{Z}$ は距離化可能(したがって完全正則空間)であるため、位相空間論における最大のコンパクト化であるストーン・チェックのコンパクト化 $\beta\mathbb{Z}$ を構成することも可能です。しかし、$\widehat{\mathbb{Z}}$ の方が圧倒的に「良い」自然なコンパクト化と見なされます。その理由は「代数構造の連続的な拡張性」にあります。
$\mathbb{Z}$ は単なる位相空間ではなく、加法と乗法が連続となる位相環です。
$\widehat{\mathbb{Z}}$ は各剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の直積から環構造を自然に引き継いでいるため、和と積の演算が $\widehat{\mathbb{Z}} \times \widehat{\mathbb{Z}} \to \widehat{\mathbb{Z}}$ 上の連続関数として完全に拡張されます。つまり、$\widehat{\mathbb{Z}}$ もまたコンパクトな位相環となります。
一方、ストーン・チェックのコンパクト化 $\beta\mathbb{Z}$ は位相的な普遍性を持つものの、空間として巨大になりすぎます。$\mathbb{Z}$ 上の加法 $+(x, y)$ を $\beta\mathbb{Z} \times \beta\mathbb{Z} \to \beta\mathbb{Z}$ に連続関数として拡張しようとすると、境界部分(超フィルターで表現される無限遠点)において極限の順序交換が成り立たず、加法が連続にならない(あるいは一意に定まらない)ことが知られています。
したがって、$\mathbb{Z}$ が持つ「数論的な代数構造」と「位相構造」を調和させたままコンパクト空間の中に閉じ込めるという観点において、副有限完備化 $\widehat{\mathbb{Z}}$ こそが真に自然で意味のある「良いコンパクト化」であると結論づけられます。
ファーステンバーグの証明を、等差数列位相の自然なコンパクト化である副有限完備化 $\widehat{\mathbb{Z}}$ への埋め込み($\mathbb{Z} \subset \widehat{\mathbb{Z}}$)の立場から見直すと、元の証明が持っていた「手品のような不自然さ」が完全に消え去り、極めて洗練された位相幾何学の定理へと姿を変えます。ここでは、先ほどの解説に厳密な定義と詳細な証明を補足して、この美しい再解釈を完成させます。
元の証明の核心であった「基本開集合はclopenである」「空でない開集合は無限集合である」という性質は、$\widehat{\mathbb{Z}}$ においては次のような標準的な位相空間論の定理として厳密に証明されます。
定義: $\widehat{\mathbb{Z}}$ は位相環であり、各自然数 $n$ に対する自然な射影 $\pi_n: \widehat{\mathbb{Z}} \to \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は連続写像として定義されます。ここで、剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ には離散位相が入っています。
証明: 素数 $p$ が生成する主イデアル $p\widehat{\mathbb{Z}}$ は、射影 $\pi_p: \widehat{\mathbb{Z}} \to \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ の核($\ker(\pi_p)$)に他なりません。すなわち、次が成り立ちます。
剰余環 $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は離散位相を持つ有限空間であるため、その部分集合 $\{0\}$ は開集合であり、同時に閉集合でもあります(clopen集合)。連続写像 $\pi_p$ によるclopen集合の逆像もまたclopen集合となります。したがって、$p\widehat{\mathbb{Z}}$ は $\widehat{\mathbb{Z}}$ におけるclopen集合です。$\blacksquare$
定義: 位相空間の点 $x$ が孤立点であるとは、1点集合 $\{x\}$ が開集合であることを意味します。孤立点を持たない空間を完全空間(perfect space)と呼びます。
証明: $\widehat{\mathbb{Z}}$ の任意の点 $x$ の任意の開近傍 $O$ をとります。直積位相の定義より、$O$ はある自然数 $n$ を用いた基本開集合 $x + n\widehat{\mathbb{Z}}$ を含みます。
$\widehat{\mathbb{Z}}$ の構造定理 $\widehat{\mathbb{Z}} \cong \prod_p \mathbb{Z}_p$ より、$n\widehat{\mathbb{Z}}$ は無数の要素を持つ無限集合です。したがって、いかなる開近傍 $O$ も無限個の点を含み、1点集合 $\{x\}$ が開集合になることはありません。ゆえに $\widehat{\mathbb{Z}}$ には孤立点が存在せず、有限個の要素からなる空でない開集合は存在しません。$\blacksquare$
以上の準備のもと、素数が有限個しかないと仮定し、$\widehat{\mathbb{Z}}$ という広い空間の中で矛盾を導きます。
ステップ1:閉集合 $U$ の構成
すべての素数の集合を $P = \{p_1, p_2, \dots, p_k\}$ とし、有限集合であると仮定します。
$\widehat{\mathbb{Z}}$ において、各素数 $p_i$ が生成するイデアル $p_i\widehat{\mathbb{Z}}$ の和集合を $U$ とします。
命題1より各 $p_i\widehat{\mathbb{Z}}$ はclopen集合です。有限個のclopen集合の和集合であるため、$U$ は $\widehat{\mathbb{Z}}$ におけるclopen集合となります。
ステップ2:補集合 $V$ と稠密性の利用
$U$ の補集合を $V = \widehat{\mathbb{Z}} \setminus U$ とします。$U$ がclopenであるため、$V$ もまた $\widehat{\mathbb{Z}}$ におけるclopen集合(したがって開集合)です。
この開集合 $V$ と、$\widehat{\mathbb{Z}}$ の中で稠密な部分集合である $\mathbb{Z}$ との共通部分 $V \cap \mathbb{Z}$ を考えます。$V \cap \mathbb{Z}$ は「どの素数 $p_i$ の倍数でもない整数」の集合です。素数が有限個しかないという仮定と素因数分解の基本定理により、いかなる素数でも割り切れない整数は $1$ と $-1$ しか存在しません。
ステップ3:稠密部分集合と開集合の閉包に関する補題の証明
ここで、位相空間論の一般的な補題「稠密部分集合 $D$ と開集合 $V$ について、$\overline{V \cap D} = \overline{V}$ が成り立つ」を証明して適用します。
任意の点 $x \in \overline{V}$ と、その任意の開近傍 $W$ をとります。$x \in \overline{V}$ より $W \cap V \neq \emptyset$ です。$V$ と $W$ は共に開集合なので、$W \cap V$ も空でない開集合です。$D$ は全体で稠密であるため、任意の空でない開集合と交わります。よって $(W \cap V) \cap D \neq \emptyset$、すなわち $W \cap (V \cap D) \neq \emptyset$ となります。これは $x \in \overline{V \cap D}$ を意味し、$\overline{V} \subseteq \overline{V \cap D}$ が示されました。逆の包含 $\overline{V \cap D} \subseteq \overline{V}$ は自明であるため、$\overline{V \cap D} = \overline{V}$ が成り立ちます。
ステップ4:矛盾の導出
上記の補題において $D = \mathbb{Z}$ とし、開集合 $V$ に適用します。さらに、$V$ はステップ2で示した通り閉集合(clopen)であるため、自身の閉包と一致します($\overline{V} = V$)。これを式にすると次のようになります。
$\widehat{\mathbb{Z}}$ はハウスドルフ空間であり、有限集合 $\{-1, 1\}$ は閉集合です。したがって有限集合の閉包は元の有限集合そのままとなり、次が結論づけられます。
これは、$V$ が $\widehat{\mathbb{Z}}$ における空でない開集合でありながら、要素を2つしか持たない有限集合であることを意味します。しかし、命題2で証明した通り、$\widehat{\mathbb{Z}}$ において空でない開集合は無限集合でなければならず、真っ向から矛盾します。
したがって、最初の「素数が有限個である」という仮定は誤りであり、素数は無限に存在します。$\blacksquare$
ハリー・ファーステンバーグが創出した $\mathbb{Z}$ の位相は、数論における「素数の無限性」という古来の命題を、現代的な位相空間論の言語へと鮮やかに翻訳しました。さらにその空間を深く解剖すると、それはただの人工的なギミックではなく、数論的な「割り切れる度合い」を距離構造として内包し、最終的には我々が馴染み深い「有理数の空間 $\mathbb{Q}$」とその構造において完全に一致するという驚くべき事実を持っています。
そして、その自然な極限(コンパクト化)を考えたとき、空間は副有限完備化 $\widehat{\mathbb{Z}}$ という強固な位相環へ至り、局所と大域を結ぶ $p$進数の世界へと橋渡しされます。この一連の理論は、数学の諸分野(数論・位相幾何学・解析学・代数学)の間に横たわる深い普遍性と美しさを体現した無比の好例であると言えるでしょう。